春や夏が社交的で活動的な人たちの季節だとしたら、冬は消極的で、部屋の中でひっそりと本を読んでいるのが好きな私達のような人間の季節だ。雪に閉ざされたムーミン谷に集まるのは、そんな静かな生活を好む人たちであり、スキーを楽しむような人種は疎まれてしまう。春が来る前は大嵐が吹き、極夜が終わり、オーロラが消え、凍った海が溶けていく。そんなダイナミックな季節の移り変わりの中に、雪どけの静謐な空気や、季節や物事が静かに変化していく時に感じる小さな幸せが描かれていて、胸がキュッとするような余韻が残る。
平山の世界には「今」と「今度」しかない。過去は寝たらリセットし、未来は全く予定を立てない。ゆえに毎日は常に未知で新しい。でも木漏れ日の影のようなわずかな違いに変化を感じ、未知の歓びを見出すのは、しがらみに囚われて忙しない生活をしている身には無理だろう。ラストの平山は、都会に生きる他者を想っているのか、それとも忘れてきた自分の過去を想っているのだろうか。