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たゆたう暮らし

自分はとても関心があるけれど、世の中的にはそうでもないような事をここに書き記す。

本の感想「羽根」レイモンド・カーヴァー;不細工な赤ん坊を前にして

 赤ちゃんというものはみんな可愛い。特に親からすれば目に入れても痛くないでしょう。

 それは分かっているのだけど、そんな他所んちの赤ちゃんの写真やパソコンの壁紙を見せられて、少し困惑した経験のある自分がいたりもします。自分は心のない人間なんだろうか。

 もちろんどんな時も「可愛いですね~。」とコメントしますが。

 

 つい最近、知り合いに子供が生まれたってことで、赤ちゃんを見に行く機会がありました。

 その時に思い出したのが、だいぶ前に読んだレイモンド・カーヴァーの短編小説「羽根」。改めて読みなおしました。

  都会で美人の奥さんを持つ主人公。田舎住まいの友達に子供が生まれたということで、家にお呼ばれします。家では孔雀が放し飼いだったり、奥さんの矯正前の歯型を飾ってたり、だいぶカオスな雰囲気なんですが、そこで対面した赤ん坊の描写がこれです。

「それはなんといおうと、これまで私が見たうちでいちばん不細工な赤ん坊だった。あまりにも醜いので、私は口をきくこともできなかった。」

 ああ。不細工な赤ちゃんを見て戸惑う気持ちが、この小説からは痛いほど伝わってきます。赤ちゃんを観察する主人公の視線といい、赤ちゃんの感想を言う言葉の選び方といい、こんな微妙な気持は自分だけではなかったんだと、何だか変な共感を感じてしまったり。

 

 もちろん赤ん坊が不細工であることと、家庭の幸せ・不幸せは全く関係のないことで。この小説に出てくる二つの家庭は明らかに赤ん坊が不細工な家庭のほうが幸せです。時が過ぎ、子供も愛情を受けて元気に育ったことがうかがえます。それに比べて都会的な主人公夫婦の家庭は冷え切っています。(そしてそんな主人公に共感してる自分はどうなんだっていう。)

 

 ちょっとした不満を言えば、友達の赤ちゃんを見て子供が欲しくなった美人奥さんがベッドで言う「ねえ、あなたのタネをいっぱいちょうだいな」という、とてもいい台詞があるのだけど、もうちょっと訳がなんとかならなかったのかな、と。原文は“Honey, fill me up with your seed !”です。

 

 「羽根」は短編集「大聖堂」収録されている一番目の小説です。この短編集には自分が何度も繰り返し読んでいる「ささやかだけど、役にたつこと」も収録されており、こちらの感想文もいつか書きたいなと思います。

 

 ちなみに、知り合いの子供は普通に可愛い赤ちゃんでした。 

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